レースウィッグが世界に広がった、その歴史と理由、そして問題点。
寝ても覚めても頭から離れないヘアロスによるウィッグの悩みに寄り添いたい、ウィッグリリアの島袋です。
本日は「レースウィッグの歴史」を紐解いていきます。レースウィッグは出自の怪しいウィッグではなく、ちゃんとした歴史と伝統のあるウィッグです。よかったら、どうぞお付き合いください。
レースウィッグが世界中のアフリカ系の女性たちに支持されるまで
レースウィッグの誕生と、変遷
古代から近代、ウィッグの歴史
ウィッグそのものの歴史は古代エジプトまで遡ることができます。ハゲ隠しとして、またオシャレとして、エジプト以降も様々な文明で利用されてきました。ただ、当時はレースウィッグではなく、ワックスベースで獣毛を使用した、「見たらすぐにウィッグとバレる」ものだったようです。
17世紀のはじめ頃にルイ13世が近代的なウィッグ(まだレースウィッグではありません)をハゲ隠しとして取り入れ、それ以降17世紀後半にはヨーロッパやアメリカの上流社会で、男女問わずウィッグはなくてはならないものとなっていました。
18世紀後半にアメリカがイギリスから独立し、独自の発展の道を歩み始めました。そのため、ヨーロッパの貴族社会から離れたアメリカのウィッグもまた、独自の進化を始めます。
アメリカの上流階級では髪が薄い部分を隠すため、そしておしゃれのために「より自然な」「より自毛に馴染んで見える」ウィッグの需要が高まりました。
レースウィッグ、誕生。
私が使っている、そして現在のアメリカで日常的に使われているレースウィッグは、19世紀に入り「レースに髪を結び付ける」技術が確立されてから作られるようになりました。
19世紀後半にレース編み機が誕生し生産が拡大しましたが、まだまだその時代ではレースウィッグはお金持ちのためのものでした。当時のアメリカで貧乏な人が髪を売ってお金に換えていたことはオー・ヘンリーの「賢者の贈り物」などで伺い知ることができます。
(ここまで下記のWikipediaを参照しました。)
20世紀から現在の白人社会でのレースウィッグの立ち位置
レースウィッグは上記のようにまずはアメリカのお金持ちの間で広まりましたが、それと時を同じくして舞台や映画で採用されました。
見た目が自然でヘアスタイルが自由なため、舞台で重宝されたのでしょう。この伝統は今でも続いており、アメリカには舞台ウィッグ専門の会社や学校も数多くあります。
下記のリンクはニューヨークタイムス紙ウェブサイトに掲載されている、ブロードウェイミュージカルで実際に使用されたウィッグたちの紹介記事。すべて、フルレースウィッグです。
現在ではカーダシアン一家やレディー・ガガなどの著名人がファッションとしてレースウィッグを着用しています。
ウィッグを販売するショップでも、アフリカ系アメリカ人のためのウィッグとは別カテゴリーとして「女優のだれそれのヘアスタイル」「歌手のなんとかさんのヘアスタイル」というような売り文句で、人毛レースウィッグが白人のファッショナブルな女性たち向けに販売されています。
もちろん、アフリカ系の方々もこういうウィッグを購入するのですが、逆にアフリカ系アメリカ人のためのウィッグを白人層が購入するのは珍しいと思われます。これは2020年時点の話で、時代はまだまだ変わっていくのでしょうけれども。
アフリカ系アメリカ人の髪のおしゃれは、上記白人社会とは別の道を辿っています。
自毛の「クセ」を全否定される時代
奴隷制度があった時代、アメリカに暮らすアフリカ系の人々は、彼らの持って生まれた自然な自毛のクセ(縮れ髪)が許されず、ご主人様のお気に召す髪形を強制されました。奴隷制度が廃止されて以降も、”neat(きちんとした)”髪である、つまりは白人のようなまっすぐな髪であることを学校や教会、そして地域で強制される日々が続きました。
自毛に、人工の長い髪を編み込む手法が確立されます。
1951年、美容師のクリスティーナ・ジェンキンスが「ヘア・ウィーブ」という方法を編み出しました。アフリカ系の、もともとの縮れ髪に人工の毛髪を編み込む技術です。それまでのヘアオイルやスプレー、ホットコームなどで無理やり伸ばした髪よりも格段に長持ちでケアが楽になりました。
その後まもなくエクステが発明され、クリップで止めるヘアピースが現れて、人種や年齢を問わず広く利用されるようになりました。
ヘア・ウィーブは「盛った」ヘアスタイルを実現できる技術として、ウィッグとは別に、アフリカ系アメリカ人女性たちの中に根付き、現在でも広く日常的に利用されています(上の写真は、ヘア・ウィーブで編み込んだ髪の例です)。
(この章の内容は、下記のサイトを参照しました。)
やっと、アフリカ系アメリカ人のためのレースウィッグの話です。
20年くらい前は、ウィッグもウィーブも美容院でセットするものでした。
レースフロントウィッグ、そしてフルレースウィッグがアフリカ系アメリカ人の間で広まり始めたのは20世紀の終わりから2000年代始めではないでしょうか。
アメリカ南部に住んでいた6年間と、帰国してからの9年、彼女たちのヘアスタイルの観察につとめ、ネットで情報を検索する中で感じたのは、2010年あたりまでは家でフル(全頭)ウィッグを被るよりも、アフリカ系専門の美容院に行ってヘア・ウィーブをしてもらったり、ヘアウェフトと呼ばれる髪の束を縫い付けてもらったりするほうがやや優勢だったのではないか、ということです。
(美容院で縫い付けている動画や画像が見つからなかったので、「縫い付けるとはなんぞ?」と思われる方は下記WikiHowをご覧ください。自毛の上にキャップを被らずに、自毛に直接縫い付けるやり方もあります。)
ネットの広がりとともに、家でウィッグを装着する女性が増えてきました。
YouTubeがサービスを開始した2005年からしばらくの間は、ウィッグの装着方法を教えてくれる動画はほとんど見当たらず、美容院の宣伝を兼ねたウィーブの動画ばかりが目立ったものでした。それが2008年ごろから徐々に自宅でウィッグを装着する様子を流す動画やチャンネルが増えてきました(今ではそういうチャンネルが数え切れないほどありますが)。
ネット、そしてスマホの普及とともに「美容院に行かずに家でできる手軽さ」を知る(そして、知らせる)女性たちが増え、「家でウィッグ派」が逆転優勢となったのでは、と考えています。
これからの、レースウィッグ。
まだまだ進化し続けています。
ほんの数年前まで、キャップサイズが選べませんでした。
これまでこのブログのあちこちで書いているように、私は平均よりもかなり小さい、ゼッペキ頭の持ち主です。
つい3年くらい前まではサイズ展開をしている海外のウィッグショップは非常に少なかったため、ウィッグの購入にとても難儀したのを覚えています。
ところが今ではショップによってはS、M、Lのサイズ展開のみならず、フルオーダーも受け付けてくれるところがあります。頭のサイズで悩むことが減りました。
シルクトップの誕生、そしてより簡便で安価な人工頭皮も。
シルクトップのウィッグがいつ頃誕生したのか、調べてもはっきりとしませんでしたが、おそらくこの10年以内のことではないかと思います。
そしてさらに最近「シルクトップほど完全な頭皮ではないけれど、自前の額とウィッグとの境をほとんどなくす」ことが目的の、「肌色の薄い布が額周囲のレース部分に縫い付けてある」サービスが始まっています。
モデルとして使ったマネキンヘッドは、自毛がある靖子さんです。靖子さん、ウィッグキャップをかぶることなく、自毛の上に直接このウィッグを着けています。額の生え際が、とても自然ですよね。
(比較用に、普通のレースフロントウィッグの同じ構図の写真のリンクを貼っておきます→こちら。)
2016年には360°ウィッグが爆誕。
生え際が360度出せるけれど高価なフルレースウィッグか、それに比べれば安価だけれどポニーテールができないレースフロントウィッグの二択だったレースウィッグの世界に、360°ウィッグが仲間入りしました(ウィッグリリアではまだお取り扱いしておりません)。
お値段も機能も、フルレースウィッグとレースフロントウィッグのちょうど中間くらいです。
惜しむらくは、アフリカ系女性の好みに合わせてあるためか、髪の量が多いんです。
そのあたりに柔軟性が出てきたらウィッグリリアでも取り扱いを開始したく思っています。
人毛レースウィッグの、今後の問題点
人毛の需要の高まり
需要を満たすため、暴力的なやり方が横行
美しい黒髪の需要が際限なく高まっているため、ベトナムでは夜道で若い女性を襲って髪を切って立ち去る暴行事件が報告されています。
また、インドでは夫が妻に髪を売るよう強要したり、スラム街の女の子に「おもちゃを買ってあげるから」と髪を切らせる事例も後を絶たないといいます。
非人道的な方法で集めた毛髪なのか、フェアな方法で取引された毛髪なのか、消費者はもちろん、おそらく各国のウィッグメーカーも知ることはできません。
このような事件を防ぐために、アメリカをはじめとした各国で「フェア・トレード」な人毛を使おう、という動きが最近出てきています。
いずれは人毛に代わる何かを
しかしながら、ある国の女性たちは髪を売り、また別の国の女性たちはそれをまるで消耗品のように使う、という現状は決して幸せなものではありません。
ウィッグリリアとしても、個人としても、いずれは人毛に代わる素晴らしい人工毛が開発され、毛髪の売買に関する悲しい事件が過去のものとなることを心から願っています。
いつになく、長くて真面目な記事でした。
お読みくださりありがとうございます。
長い記事を最後までお読みくださった方々、ありがとうございます。
レースウィッグの歴史、変遷を語るにあたって、最後の部分を無視することはどうしてもできませんでした。
矛盾を抱えながら、でも一度手にしたウィッグはなるべく大切に、長く、きれいな状態で使いたい、と心がけています。
次回からは、軽めの筆致に戻って、新しいTipsなどをお届けしたく思います。今後ともどうかよろしくお願いいたします!